“だしが濁る”という表現を聞いたことがあるでしょうか?
雰囲気的にあまり良い意味ではないと思った方、その通りです。
それどころか節屋にとってはかなり耳の痛い話です。
価格交渉のときに「だしが濁るんだよね~」と言われ、希望価格で売れなかったという経験はどの節屋もしていることでしょう。
前回のブログのように和食は引き算の料理、余分なものは嫌われます。
だしの濁りとは、味的にも見た目的にもその余分なものに他ならないと言えます。
今回のだしの科学ではこの「だしの濁り」の発生のメカニズムから抑制方法まで論文を読んで解明していきます。
だしの濁りの原因は、ずばり脂質です。
これまでも原魚に脂が多いと良い宗田節ができないとか、脂の少ない時期の寒目近が良い宗田節になると言ってきた意味はここにあります。
ただこの論文によると、「だしの濁りがある=だし中の脂肪含量が多い」という実験結果に対し、「節の脂肪含量が多い≒だしが濁る」となるようです。
これはさらに詳しく濁りの原因を探る必要がありそうです!
百聞は一見に如かず。
だしの濁りの原因物質を図示しました。
(論文中の写真の模写です)
原因物質はずばりオレンジの球(分かりやすく着色しています)
その名も「脂肪球」!
図は脂肪含量の多い宗田節を電子顕微鏡で見たものですが、だしをとった後はこの脂肪球が減少し、だしの中に移行し濁るのが分かりました。
「節の脂肪含量が多い≒だしが濁る」となる理由は、節の筋繊維に付いている脂肪球がだしに移行する割合に差があるためで、移行率は1.2~3.5%と低いうえに節によっては5~20倍も移行率に差が見られました。
※原魚の鮮度が悪かったり、煮熟や焙乾が不十分だと移行率が高くなるとも言われているようです。
この移行率が低い節をつくるのが節屋の腕の見せ所でしょうか。
これでだしが濁るメカニズムは解明できました。
続く濁りの抑制方法とは?
実はこの濁りの抑制方法はみなさんご存じです。
ポイントは2つ。
①長時間だしを抽出しない
②ダシパックや濾し袋を使用する
それぞれの解説としては、
①だしの抽出時間と成分の関係を調べたところ、3~5分ほどでうまみが出て後は一定であるのに対し、脂肪量(濁り)は時間がたつほど大きくなるため。
②ダシパックや濾し袋を使用することで、削り節の動きが抑えられ脂肪球がだしに移行することが減り、だしの濁りが抑制される
もちろん削り節の形状や用途によってだしの取り方は変わることと、ダシパックの繊維が脂肪球を取り除いているのではないということに注意です。
※ダシパック等の網目より脂肪球の方が小さいため通過します。
網目(50~100μm ) > 脂肪球(1~30μm )
今回は2つの論文をまとめたので少し長くなりましたが、興味のある方は原文を読んでみてください。
「節によるだし汁の濁りの生成と原因成分:山澤正勝著(2010)」
「だし調製条件によるだし汁の濁りの生成とその抑制:山澤正勝著(2012)」
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