日本最古の鰹節の記録は1513年の「種ケ島家譜」にあった。
それが世界最古の鰹節の記録かと思う人もいるかもしれないが、そうではない。
古今東西、世界中で鰹節を造りその食習が広範に普及している国が日本以外にもう1つある。
モルディブである。
モルディブはインド洋上、赤道を挟んで南北の約9,000㎢の海域に点在する1,200もの島々から成り立ち、全島が海抜1~2mのサンゴ礁で形成されている。
そこで日本史に鰹節が登場する170年前の1343年に、モロッコの旅行家イブン・バットゥータが上陸し記録を残している。
旅行記「三大陸周遊記」のなかで周辺の国々に鰹節を輸出し、「鰹節は羊肉のような匂いがし、食べれば無類の活力をもたらす」と説明している。
モルディブでの鰹節はヒキマスと呼ばれ、ヒキ=乾燥、マス=魚・カツオを意味する。
鰹節の誕生した理由は単純明快で、虫よけのためである。
ロヌマス(塩干し)やワローマス(なまり節)のような製品もあるが、赤道直下の熱帯で蠅や蚊の被害を避けるため各家庭に燻乾場(かまど+焚納屋のようなもの)があり、作業中及び作業後の人やカツオを蠅や蚊から守っている。
なんといってもカツオのことをモルディブ・フィッシュと呼ぶ、カツオ県を自認する高知もびっくりのカツオ国である。
カツオの年間一人当たり消費量も日本一の高知県の4kg以上に対し、モルディブは170kg以上(観光客含まず)と桁違いである。
全水産物の水揚げのうちカツオが70%余りを占め、1153年よりイスラム教を信仰していることもカツオが国民食であることを後押ししている。
※イスラム教では豚肉や、適切な処理をしていない牛・鶏肉はハラム(禁じられた)フードであり、魚介類はハラル(許された)フードである。
主食は米と小麦粉で、小麦粉は生地をこねて平らにして鉄板で焼き、ロシにして食べる。
そのおかずとしてカレー粉などのスパイスを効かせた煮込み料理にヒキマスやワローマスを切ったり砕いたりして具としている。
そうしてモルディブで少なくとも1000年以上続くカツオ漁は、日帰りの一本釣り漁で漁獲されている。
10〜15人乗りの船で活餌を獲り、カツオにつく鳥を頼りに群れを探し釣りまくる。
船には冷凍設備がないので氷で冷やし市場に水揚げ、船主の取り分を除いて残りを山分けにする。
なんとなく江戸時代の土佐清水もそんな感じだったのではないかと想像する。
海の豊かさがあればこそだろう。
日本から南西へはるか7,600km。モルディブから琉球王国へ、そして臥蛇島から本土へ。
モルディブにあった日本の鰹節の源流は、その後日本各地で本家を凌ぐ進化を遂げることになる。
(参考文献:宮下章.鰹節上巻.日本鰹節協会、1989 / 藤林泰・宮内泰介.カツオとかつお節の同時代史.コモンズ、2004)
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